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アラブ小娘と中年教会守衛の諍い、が始まった。 小娘は教会の入り口に座り込んで観光客から金をせびっていた。それを見かねた教会の守衛 らしき中年男が立ち去るように小言を言い始めたわけだ。カルチェラタンの隅っこにある、st sevarin教会の入り口で<それ>は始まった。小娘は18歳余りで、かなり美しい、が、身なり は薄汚れて、あっちこっち衣類が擦り切れている。 小娘の大きな声での逆らいに、教会の守衛が怒りに震え、強烈に追い払い始めた。顔は怒りに 満ちてかなり明白な嫌悪感があらわにでている。小娘の足の間に片足を入れて、そして顔と顔 を目一杯接近して何処かに行くように迫っている。 守衛の気持ちもわからなくは無い。回教徒の小娘が、事もあろうに、キリスト教会の入り口にス カーフを巻いて小金をせびっている。それは執拗で、入り口を潜り抜けようとする観光客には明 白な妨げになっている。日本のお寺の前でキリスト教徒が物乞いするようなものだから、確かに 常識というものが欠けている。 。。。。。。。。 諍いの向こうでは、路地の上、若者二人がギターで弾き語りで、道行く人や正面のカフェに座り 込んだ観光客相手にシャンソンを聞かせている。なかなか、趣があって好評だ。人通りが固ま って観客になっているのをみてもわかる。 。。。。。。。 かなりの言い争いの末に守衛は終に切れたようだ。小娘は果敢に男に挑んでいる。何が悪いの か、というわけだ。大声で、あからさまに男を罵倒している。アレ トラバイエ!!!! 私は働いているだけだ、といっているのか、或いは男に、とっとと自分の仕事をしな、と叫んでい るのかは私のフランス語の力では分からないが。 ここにもサラがいた。 美しい若いアラブの小娘は強烈な勢いで中年男に食って掛かり、男の怒りが頂点に達しようと していた。 そこへ薄汚れた中年浮浪者がゆらゆらと通りかかった。右手は絶えず揺れて震えている。明ら かにアルコール中毒だとは分かる。浮浪者はゆっくりと二人に近寄って、そして呂律の回らない 言葉で、この小娘は頭がおかしいだけだ、ゆるしてやりな、と守衛に話しかけている。頭がおか しいのは、どうみても浮浪者のように私には見えている。 浮浪者は、また、浮浪し始めて消えた。 。。。。。。。。。。 歌は流れて、やがて、熊のぬいぐるみを被った道化までが登場して、そして、それを追いかけて ロシアの軍服だとは思うが、身につけた軍人が面白おかしく熊を追いかけ始めた。歌と道化。ど うも、この路上のパーホーマーはかなり凝ったプロのように思える。 私は教会の鉄柵に背中をもたれかせ、路上に座り込んで道行く人をただ見ている。空は蒼く、 そして天気は良い。 幾度と無く、かってこの路地を通って観光客相手の日本料理屋に通っていた。働きに、だ。同じ ように、幾度と無くこの道を、すぐ近くの安宿に疲れながら深夜戻っていった。19歳のときだっ た。 目の前には小さな壁にへばりついたような、間口2m程度の小さなスーパーマーケットがあって 今も続いている。威勢の良い老人は当然姿を消して若い男が立っている。息子の時代に成った のだろう。針金仕掛けのコルク栓のリモナードも今はスプライトに取って代わられている。 。。。。。。。。。 守衛は完全に切れたようだ。 小娘の頬に、一発、強烈な、張り手が飛んだ。 それでも、小娘はひるむことなく、ポリス!!!!!、と叫びながら執拗に抗い続けている。美 しい顔が輝いている。何に向かって抵抗しているのか。 昔、サラは火炎瓶を警官に向かって投げ捨てた。どうにも成らない、憤りが爆発した。この世の 仕組みに、あるいは、ベルベルの血が騒いだのかもしれない。 。。。。。。 クマのぬいぐるみは消えうせて、ロシア軍服がチップを集めに回っている。かなり集まっている のが、こちから見えている。私ですら立ち上がって、いくばくかのチップを投げ捨てようかと思う ほどに、それはパリの街並みにマッチしていた。さりげなく、おしつげがましくもなく、そしてセン チメントに満ちている。 何処かで、聞きなれた曲に変って、手拍子でも打ちたくなる軽やかなリズムが流れている。ちら ほらと、手拍子も聞こえ始めた。 。。。。。。 小娘は口惜しそうに、尚も悪態をつきながら、名残惜しそうに、振り返り、振り返り、路地の向こ うに消えてゆく。 私は、今は、傍観者だ。主役ではない。さまざまな思いは過ぎるが、沈黙して道端に座り込んで 眺めている以外には無い。 やがて20分もすれば、小娘はきっと、性懲りも無く帰ってくると思っていた。だから、そこに座り 続けていた。サラなら、きっと、もどってくる。 あの日と同じ空だった。 。。。。。。。。 歌は終わった。休憩ということらしい。 20分待ったが、小娘は、戻っては来なかった。 私は立ち上がった。 そして、かってのように、スーパーの袋にオレンジとミネラルウオーターが重くのしかかった荷物 をもって、14番地に向かって歩き始めた。 私は、やっぱり、この街が好きだ。それも、強烈に。
by tabibito9999
| 2006-09-25 00:46
| 漂流記
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